「お帰りなさい。二人とも。ご苦労さまでした」
「貴様、この仕打! 末代まで祟ってやるからな!」
「では、圓頓寺さん。話してもらいましょうか」
学校に戻り、生徒会室に入ったところで尋ね人・圓頓寺笑夢(えんどうじ しょうむ)は簡単に見つかった。
「会長!? これはいったい!?」
「ぐああ、人間のオスがいる~ッ 消臭剤が必要だ!」
僕と遊花はドアを開けた途端に目的の人物が見つかったのでホッとする。…というわけにもいかない。
上半身裸で、亀甲縛りになった圓頓寺は苦渋の表情で斜め上を向いたり横を向いたり忙しそうだ。恐らく決め顔の角度を気にしているものと思われる。
僕は消失したはずの彼がいきなり見つかったことに驚いているのだが、遊花は「この世から退場してくれさい!」とレッドカードを手に持って笛を吹き出すという別次元の反応を示していた。こいつの男性嫌いは筋金入りだ。
「あの圓頓寺さん…。無事だったんですか? ですわ」
僕は驚きを隠せないまま、恐る恐る会長と圓頓寺の両方に訊ねていた。
「ふんっ。なんのことだ? ぼかぁずっと部室棟の一室で昼寝をしていたんだがな」
「いや… あのそれもなんですが、その前にどうしてそんな恰好を?」
亀甲縛りというものを初めて目の当たりにしたが、上半身がガチガチに固められて両腕の自由がない。両足は無事であるが正座をしていて、唯々野さんに傅(かしず)いているようにも見えた。足を組み机に腰掛けて見下ろしている唯々野さんは少し汗をかいて制服が乱れていた。
いったい… 何があった…?
「まあ気にしないでください」
気にするなというのは無理があるが唯々野さんは涼しげだ。フローラルの香りが漂ってくる。
「逃げないように縛るために時間がかかってしまいましてね。お二人に連絡するのが遅れました。ごめんなさい」
「いえ、それは別にいいんですが、これは大丈夫なんでしょうか?」
「いやこれは大問題だぞ! 次の全体生徒会で辞任に追い込んでやるからな!」「いつものことなので彼はきっと喜んでいますから大丈夫でしょう」
圓頓寺と唯々野さんは同時に僕の質問に答えてくれる。いつものこと…? つくづく唯々野さんの謎が深まる。
「既に証拠の画像もありますが、圓頓寺さんが女子水泳部 部室に入り込んだことは間違いありません」
「はんっ。ぼかぁ水泳部の友人のところに行っただけだ。もちろん男子だからな。なんの問題があろうか」
「では一言主伊千寿(ひとことぬし いちず)という女子生徒に心当たりはありませんか?」
「…いや?」
相変わらず斜め横を向いたりしているが、圓頓寺の眉がピクリと動いたことは僕でも解った。
「10年前に女子水泳部の部室で自害をした方です」
「え?」
僕は衝撃を受ける。そんな事実があったなんて初めて知った。隣で遊花も「ほぇぇ」と難しい変な顔をしていた。
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