数々の疑問点が交通渋滞を起こしてきたので少し整理しよう。
僕の疑問はどうして唯々野さんはパンツを穿いていないのか、ということに尽きる。だが混乱している僕にまともな思考ができるはずもないのだ。疑問が浮かぶだけで思考は停止している。
唯々野さんの方はこう思っているはずだろう。彼女には僕の姿が可憐な女子生徒のように見えているのだと思う。その女子生徒がなぜに男物の下着なんかをハンカチを落とすかのように普通にカバンから落としてしまったのだろうかと。あまりにもそぐわない。
それともう一つ。
「ぇぇ????」
「あ、じゃなくて…」
唯々野さんの疑問は最もである。
一人称の呼称と容姿のギャップだ。不審を募らせた目のおかげで、それはありありと伝わってくる。心臓の鼓動が早くなった。
「ぁ、ぁ~…」
女装を始めて一週間も経っていないときだったと思う。そんなときに僕らは出逢ったのだ。完璧な女子生徒を演じきれなくても不思議はない。
「あはは、…ボクのじゃ …あ、じゃなくて、ワタシ? のじゃないのですわ」
下手くそな裏声で必死に女子の真似をしていた。
広げられたその汚らしいブリーフパンツは紛れもなく僕のものなのだけれど、女子の恰好をしている僕のものであると彼女の前で言い切ってしまうのはまずい。
「……。そう… なんですか。確かに貴女の鞄から落ちたように見えたものですから…」
「あぁ~… なんででしょうね? 桜吹雪と一緒にどこからか飛んできたのかも知れませんね~」
あふふひひはは… と引き攣(つ)った笑いを浮かべながら僕の所持品であることはなんとか誤魔化した。
「風で飛んできたとなると、近くのマンションからでしょうかね」
唯々野さんは健やかな笑顔を浮かべて訊ねた。すぐに不審を消して気を取り直す唯々野さんはすごい。まるでちゃんとパンツを穿いている人みたいだ。
「…なるほど鋭いですわ」
「私、落とし主を捜してみます」
唯々野さんは手を差し伸べる。返してくれということか。
「ほゎッ!?」
僕は咄嗟にパンツを後ろに隠していた。
嘘をの証言を元に名推理されても困るのだが、それは僕が招いた事態だ。全面的に僕が悪い。
「マンションって言ってもこの近くには10棟以上ありますわよ!? どこのお宅から落ちたものかもわからないのに捜せっこないですわっ」
そもそもブリーフの落とし主はここにいるのだから、さらに質(たち)が悪い。
「でも困っていると思いますし」
「ぃやぁ…。1枚くらい失くなっても大丈夫かと…。それに名前でも書いてない限り特定するのは難し……」
名前ならバッチリ母親に刺繍で縫い付けられていたっけ…。僕のものだと丸わかりの状態であった。もしかしたら唯々野さんの角度からなら裾の文字が見えるかも…。
「そうですね。確かめてみましょう」
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