「ぁ、待ってください会長。ここはボ、あ、ワタシが行きますわ。彼が窓から逃げる可能性もありますし…」
「いえ曜子さんを危険なところに送り込むわけには、やはりここは会長である私が…」
「や、あの大丈夫です。ボク… ワタシのほうがこう見えて力持ちですから」
迷っている暇はない。居眠りしている遊花が機能しない今、男子の僕が行くしかないだろう。
部室棟はL時型の2階建てだ。運動部のために26室もあって、他にはシャワー室と室内トレーニングスペースも備えている。木造建築だが、これはもうちょっとしたマンションだ。
女子水泳部は道路側の2階で、男子水泳部はすぐ真下の1階。角部屋である。
僕はカードタイプの合鍵を持って来ているので、部室棟に正面から入って奥に入っていった。カメラは起動したまま首から下げておく。
圓頓寺のことはあまりよく知らないが運動部の関係者ではないだろう。関係者ならカードキーの所持登録リストや貸し出しリストに載っていると思う。持っていないからこそ裏の窓からコソコソと入るしかなかったのだ。
ということはカードキーの貸し出し、所持者リストの中に圓頓寺を手引した者がいるわけだ。共犯関係にあると言えるだろう。
今の所、女子水泳部で物を取られたとか傷害沙汰などの事件性の高い話はない。精子が撒き散らされていただけだ。手引をした人はなんのメリットがあって圓頓寺に協力したのだろうか?
疑問ばかりで考えがまとまらないまま男子水泳部の前までやってきた。男子の部室の中に圓頓寺が留まっているのなら、女子水泳部の事件とはなんの関係もないと思われる。それはまったく別の事件ということだ。
ゆっくりと音が鳴らないようにノブを引いてみた。鍵がかかっているなら圓頓寺は中に留まっているまま、開いているなら既に部室を出て女子の部室に向かっていると思う。彼はカードキーを持っていないのだから。
ノブは… 回った。鍵がかかっていない。
僕はそっとノブを戻してすぐに脇の階段から2階へと向かう。一歩、また一歩、歩を進めて2階へと辿り着くとなんだか胸のドキドキが激しくなってきた。2階は女子の運動部部室が並んでいるのだ。フロアの雰囲気からして1階とは別世界である。
冷たくもあり温かくもある空間だ。1階と同じで人気はまったくない。1階はむさ苦しかったが、匂いの違いだろうか。僕は女子水泳部の部室の前に立っただけで股間が悶々としてくる。
「あんっ」
「!?」
不意にどこかで音が響いた。椅子を引いた音? くぐもっていて解らないが、今のは人間の声だったのだろうか? どこかの部室内に誰かが居るのかも知れない。
僕は慎重に水泳部の扉に耳を近づけて中の様子を窺う。
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