「へっへっへっ。チクらないって約束してくれるまで、ここは通さないぞ~」
僕が思考を巡らせているところに遊花はやはり目をハートマークにして、飛び上がりダイビングしてきた。まずい、身体を抱かれたり胸や股間に少しでも彼女の手が触れたら、僕が男子であるということが確実にバレてしまう。僕は低空で這うようにして脱出する。
ダッ
「だから、いけませんって」
「あーもう逃げないでよーっ」
僕は遊花の下を掻い潜ってごろんっとマットの上からゴロゴロとはみ出す。体育倉庫の扉まであと1メートルだ。僕は転がった勢いで立ち上がって扉に張り付こうと思った。鍵をすぐに開けて脱出。そう考えていた。
だが鍵はなかなか解錠できなかった。
ぱふっ
「逃さないんだから。曜子ちゃん。にふゅふゅっ」
「ふぅぉお!?」
暗闇だ。もたついていたところに突然、宇宙空間に放り込まれたかのように目の前が真っ暗になった。
「な、なんだ、これっ」
辛うじて裏声を保てている。そして息はできる。ここはまだ体育倉庫の中のはず。僕は息を整える。どこかに光源はないのだろうか。
「ん」
すんすんと鼻を鳴らすと温かくて芳しい臭気が蔓延していることに気づく。
チーズと爽やかな香水とマカロンを混ぜたような甘酸っぱい清涼感が感じられる。僕の鼻の辺りがどうも湿っているように感じた。
「パンツかな!」
「お、正解。視覚を奪われたのに匂いであたしのことに気づけるなんて、ひょっとして曜子ちゃんは遊花のストーカーだったりする?」
「ぷはっ」
僕は顔面を覆う布を上にずらした。これは遊花の下着か? あの一瞬で脱いだのか? 僕は正直なところ怯えている。チェリーボーイに対してここまで傍若無人に振る舞われては、女の子に対する幻想というものが嫌でも壊れてしまうではないか。
「なんでパンツ!? ちょっとやめてよ! こういうことっ」
「匂いですぐにあたしのパンツって気づくのってやっぱ先輩が連れてきたニューカマーだけのことはあるよね! 同士よ!」
「ワタシ、変態じゃないですのよっ」
「捕まえ、たーっ」
遊花は僕に抱きつこうとしてこちらに倒れてくる。受け止めて支えてくれることを前提にした女子特有の相手を信頼しきった抱きつき方だ。
「ひっ!?」
まずい、抱きつかれたらゴツゴツとした男の身体がバレてしまうだろう。回避一択なのだが、だからといってこのまま避けたら遊花は鉄扉に頭を打ち付けることになるだろう。最悪血を流して病院送りだ。この勢いなら、打ちどころが悪ければお亡くなりになってしまうかも知れない。
ばこんっ
僕は遊花の抱きつき攻撃をまったくの躊躇なく回避していた。
ずるりとノーパンの遊花は生尻を出したまま鉄扉の下に沈むのだった。
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