女子水泳部の部室に男子の体液が撒き散らされた事件は、まだ終わっていなかった。犯行は現在進行系で繰り返されているんだ。ということはやっぱり犯人は圓頓寺で決まりなのではないか?
しかし件の圓頓寺笑夢(えんどうじ しょうむ)は犯行現場に居なかった。確かに中からいかがわいい声が聞こえていたのに、もう一人の一緒に居たであろう女子生徒も消えていた。僕が踏み込んだときには誰も居なかったのだ。
忽然と二人もの人間が忽然と消えてしまった。まるで幽霊か何かのように。あまりの事態に僕はしばらく考えがまとまらなかった…。
*
「それで男の子が毎日のように体外に放出しなければいけない、いやらしい衝動の結晶は、証拠として確実に撮影しているのですね?」
「ぁ、はい…。け? 結晶って…??」
真っ赤なフレームの眼鏡にチェンジした唯々野さんが振り返る。
また新たな一面を魅せる唯々野さん。
唇をキュッと結んで理知的な目の色をしていた。身長は僕とさほど変わらないはずなのに、今までの性格の唯々野さんより大きく見えるのが不思議だ。
僕は部室棟に潜入してからの様子や事件の状況を事細かに生徒会長に報告していた。
「隠れられるようなところはないし、床や天井も脱出口になるものはなかったです」
女子水泳部の部室で精子を発見してから約3分後に通話アプリで唯々野さんに連絡したのだ。そして代わりに駆けつけたのは遊花。唯々野さんが通話アプリでしつこく彼女を呼び出し、居眠りから覚めて現場に急行したということだ。唯々野さんは自身は外で見張り続けていたらしい。
そして遊花と一緒に現場を確認して、一応撮影もしておいた。冷静に考えて、なんでこんなものを撮らなきゃいけないんだ… とは思う。
最後に精子をティッシュで拭き取り、そのままビニール袋に詰めて持って帰ってきたが、DNA検査ができるわけでもなく、たぶんそれらは徒労に終わることだろう。
「まったく穢らわしいね!」
遊花も隣で生徒会長に報告をしている。
「きったならしいエロ汁を撒き散らしちゃって、これだから男子って生物はっ。まったく救いようがないわー」
先程まで寝ていた癖に、偉く強気だなと思う。
「まあそう邪険に言わないであげましょう。エロい男の子とお淑やかな女の子は紙一重なんですから」
やはりこの唯々野さんは初めて見る唯々野さんだ。理知的かつ正義感の漂うオーラになんだか安心感さえ感じてしまう。これが生徒会の執務をする会長本来の姿なのだろう。
「ねぇ? 曜子さん」
「ぇぅっ」
緊張が走る。
机の前に悠然と立って軽く腕組みをし、片手を頬に充てて考え事に耽る少女は、まだ僕が知らない唯々野さんだ。真面目な顔をして冗談なのか本当なのか解らないことを言う。曜太と曜子は紙一重。それは確かにそうなのだが、遊花の居る前でバレそうな言説は止めて欲しい…。
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