気恥ずかしさですぐに目を逸らしていた。バカみたいに広げていた手を頭を掻くフリをしたりしてなんとなく引っ込める。無謀にも抱きかかえようとしていたなんてことは、これで誤魔化せただろうか。
「あ…」
唯々野さんもモジモジとしだしてお互いに目線が合わない。これはいったいなんなのだろう。無為な時間が過ぎ去っていく。
というか彼女は自覚をしているんだよね? 僕は先程の光景を思い出していた。あるはずのものがなかったのだ。腰回りを覆うはずの純白のパンツが。
「ふぐっ!」
思い出して鼻血が出そうになる。女性器は花びらが舞っていて隠れて見えなかったものの、僕は女子の裸を生で見たのだ。
どうしてパンツを穿いていないんだという疑問よりも女子の下半身事情に詳しくない僕はとてもその構造のほうに興味が沸いてしまった。
「あのぅ…」
数分後、恥ずかしそうに唯々野さんは虚空に向かって声を発した。
「あ、はい。あの… 何か御用でしょうか?」
僕も数分後、何か思い出したかのように俯(うつむ)きながら訊ねた。
「あ… ぇと…」
お見合いでもしているかのように僕らは言い淀む。
「今、なにかおかしなことが… ありませんでした?」
さらに数分後、唯々野さんは口を開く。初めて聞いたその声は弱々しく可憐なウィスパーボイスだった。
これがあの生徒会長なのだろうか?
そう、僕はすぐに気づいていた。彼女が不正を許さない、正しいことを正しいと言える、清廉(せいれん)で勇猛果敢な泣く子も黙る生徒会長 唯々野ちこであることに。
「あの…」
唯々野さんは消え入りそうな声で勇気を振り絞って僕に訊ねていた。それは傍から見れば僕のほうが悪者に見えるくらいだ。この人は本当に唯々野ちこなのだろうか。
「えと… なにもー。ありませんわ」
声が裏返って女声のようになっていた。僕は酷く恥じ入る。初めてそんな声が出たことに胸がドキドキと高鳴ってきた。
「そうですか…」
唯々野さんはとある疑念を抱いていたに違いない。
「あのぅ、これを… 落としましたよ」
ふと思い出したかのように唯々野さんは手を差し出した。見れば何かを握り締めている。白いハンカチのようなものだ。
落としただって? そんなもの持っていただろうか?
「ぇぁぅ…?」
疑問に思いながらもそれを受け取った。
今から思えばどうしてそんなものを落とすようなヘマをしたのか間抜けとしか言いようがなかった。
「…ぱんつ?」
「ほぇ!?」
今度は意識的に声を裏返させた。
ハンカチを広げてみるとそれは僕の穿いていた真っ白なブリーフパンツだったのだ。こんなものを握り締めて彼女は追いかけてきたのだ。こんなもののために風に煽られてバランスを崩し、危うく階段を転げ落ちる目に遭うところだったのだ。
「ボクのじゃないですわ」
「え?」
「え??」
お互いに様々な疑問符が頭の上を飛んでいるようだった。
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