「さぁ遠慮しないで遊花ちゃんって呼んでね」
恋は盲目とはこのことだろうか。遊花は目の焦点がどこにも合っていない。なにせハートマークなのだ。
「ふぅふぅ… ぼ…、ぃゃワタシは! 女子同士として普通にお付き合いできればいいと思います。遊花 さ ん っ」
彼女をちゃん付けで呼ぶわけにはいかない。ここで圧されるわけにはいかないのだ。ここで踏ん張って支配力を身に着けていかないと、ズルズルとまた唯々野さんのときのように目も当てられない状態になってしまう…。
「普通のお友達として!」
「あたしたち、親友なんだね…」
通用しなかった。ぽわ~んと火照った遊花の頭では何を言っても無駄かも知れない。彼女は理解するということを既に放棄しているのだから。
「親友なら普通キスくらいするよね?」
「しないですわっ!」
むーっちゅうっとキス顔で迫ってくるのだ。僕は全力でギリギリ回避していた。
「わあっ」
脱出の扉まであと少し…。僕は回避を重ねながら徐々に扉に近づいている。ただ彼女のほうが扉に近い。もう一度遊花を掻い潜らないと辿り着けない。
「チラっ」
「わあ!?」
遊花は何を思ったのかいきなり自分のスカートの裾を摘んで捲りあげてきた。
「み、水色っ」
「そう、情熱の水色なの! 勝負パンツ!」
「ワタシと色のイメージが違いますわっ」
僕は思わず目を逸していた。
「ひゃひゃひゃー」
そして遊花は当然のように熊のように襲いかかってくる。そういう作戦だったのだ。まんまとハマってしまった。
「く、しまった。ですわ…」
「さあ、くんずほぐれつ。ねちょねちょに唾液を絡ませてまぐわいましょうっ」
「いけませんのよっ」
遊花の魔の手を掴んで危機回避しているものの、圧されていることは確かだ。彼女のほうがパワーは上のようだ。
「うぐぐ」
僕は逆に遊花の力を利用して身を引いた。肩の力を抜いてバックステップを踏みながら遊花の手を空振りさせる。
「逃げないでよ~」
「逃げますのっ」
扉までまだ遠く感じる。
「もうっ。曜子ちゃんのおっぱいも触りたいなぁ。ね? ちょっといいでしょ?」
手を伸ばしてくる遊花。ひひひと迫ってくる姿はまるでセクハラエロ親父のようだ。生徒会の入会順は彼女のほうが早いから、先輩という立場を利用して僕を手篭めにしようとしている。
「セクハラっ、それセクハラっ。会長に報告しちゃうかもしれませんわよ?」
「あ、それは止めて」
遊花はすんっと素に戻って僕から離れる。
「…??」
生徒会会長、唯々野ちこ先輩という存在はそれだけ権威がある、名前を出しただけで抑止力があるということだ。僕はここが突破口になると思った。
「ちこちゃんに失望されるのは嫌だなぁ。曜子ちゃんそれだけは黙ってて。ね?」
両手を合わせ組んで片目を閉じ、カワイコぶりっ子でお願いポーズをしてきた。遊花は唯々野さんに頭が上がらないのだ。まぁ僕も頭が上がらないわけだが。
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