第三話 女子に擬態する男子と女子のことが好きな女子(1)【美少女遊戯】

美少女遊戯 -ちこさんの秘密-

 類は友を呼ぶと言う。

 それは当たっていると思った。同類項は引き寄せられるというのは確かに必然なのだろう。唯々野ちこ先輩と出逢ってからというもの、僕の回りに奇妙なことが起こり始めていた。

「ム~… っちゅううぅぅ~」

「いやいやいやいや!」

 ――この通り。

 栗毛色の髪の少女がキス顔をしながらゆっくりと近づいてきた。体育倉庫の中、逃げ場は鍵のかかった出入り口しかない。

「ちょっと逃げないでっ。いいじゃんよ、減るもんじゃないんだし」

 観念しなっという南島遊花(みなみのしま ゆうか)の顔は引くほどゲスいものだったことを覚えている。

 彼女は隣のクラス、B組に在籍する女子であり生徒会の一員でもある。親友と呼ぶべきか悩むところだが、僕としては戦友のような気持ちだ。遊花のほうはどう思っていたのか知らないというか知りたくもないのだが、悪くは思っていなかっただろう。むしろ僕が女装をしている限りにおいてはかなり友好的と言える。

「あのぅそういうことじゃなくて、ですわ!」

 ほんの出来心で始めた女装だったが、唯々野さんとの一件から僕は常に女装をしている。生徒会長命令だからということもあるけれど、僕は本来の自分、男性を覆い隠すために女装をして隠れ蓑にしているのではないかと思った。

 特殊な事例なのかも知れない。

「うふん♡」遊花は両手で壁ドンをしている状態で僕を逃さない。「ちょっといけないお遊びだと思って!」

 愉しみたい。そういう彼女の気持ちは伝わってくるが、彼女は僕が男子であることを知らない。もし知っていたら今頃とっくに殺されている。

「今は仕事中ですわよっ」

「曜子ちんは真面目っ子だなぁ。サボって手抜きすることも覚えないと便秘になるよぉ?」

 血液型占いのB型の特徴を絵に描いたような性格の持ち主だ。ガサツでゴーイングマイウェイ、常に笑顔を絶やさない印象。髪はショートで毛先を遊ばせている。

 濃紺の制服に崩して付けたリボン。体型は痩せているが胸の重みが唯々野さんの倍はあるだろう。グラマラスだ。身長も女子にしては高めだし、身体能力・運動センスなんかは抜群である。

 僕よりも男らしいと言えよう。

「真面目でけっこうですわ。女同士で接吻なんて不健全性的行為~」

 女子に責め込まれたらまずい。女装はしていても心は男のままなのだ。

「ひと夏の恋だと思ってさ」

「今は春!」

「春も夏もだいたい同じじゃんか」

「それ外国の発想!」

「にふふっ」

 遊花はにんまりと口の端を上げて、ヨダレを垂らしてみせた。

「女子同士だからいいのにぃ」

「女子同士だから駄目なのですわっ」

 僕は裏声を使いながら必死に取り繕う。男だとバレたら凄惨な事件へと発展していくだろう。どうにかしてこの密室から脱出をしなければ。

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